製造業の工場・事業場では、反応槽、タンク、配管、ポンプ、薬液注入設備など、さまざまな設備で化学物質が取り扱われています。
その中でも、一定の特定化学物質を製造し、または取り扱う移動式以外の設備は、労働安全衛生法令上の「特定化学設備」に該当する場合があります。
この記事では、特定化学設備とは何か、対象となる物質、化学設備との違い、そして現場で見落としやすい確認ポイントを整理します。
特定化学設備とは
労働安全衛生法施行令第15条第1項第10号では、特定化学設備及びその附属設備が、定期に自主検査を行うべき機械等として位置づけられています。
ここでいう特定化学設備とは、特定第二類物質または第三類物質を製造し、または取り扱う移動式以外の設備をいいます。
「取り扱う設備」とは、反応槽、混合槽、貯蔵タンクといった主要な容器本体だけではありません。実務上は、それらに接続される配管、ポンプ、バルブ、フランジなども対象に含まれ得ます。
ただし、最終的な該当性は、法令上の定義、設備の構造、固定設備かどうか、実際の取扱方法、対象物質との接触の有無などを総合的に確認して判断する必要があります。
対象となる特定第二類物質の一覧
特定化学設備に該当するかどうかを判断するためには、対象となる物質を正確に把握することが重要です。
特定第二類物質は以下の物質です。また、これらの物質を含有する製剤その他の物についても、特定化学物質障害予防規則別表第一に定める含有率を超える場合には対象となります。SDSで確認する際は、物質名だけでなく、含有成分と含有率も確認する必要があります。
下表は、純物質としての対象物質名と、製剤その他の物として確認する際の主な含有率基準を整理したものです。
| 物質名 | 製剤その他の物として確認する際の主な含有率基準 |
|---|---|
| アクリルアミド | 重量の1%を超えるもの |
| アクリロニトリル | 重量の1%を超えるもの |
| エチレンイミン | 重量の1%を超えるもの |
| エチレンオキシド | 重量の1%を超えるもの |
| 塩化ビニル | 重量の1%を超えるもの |
| 塩素 | 重量の1%を超えるもの |
| オルト―トルイジン | 重量の1%を超えるもの |
| クロロメチルメチルエーテル | 重量の1%を超えるもの |
| 酸化プロピレン | 重量の1%を超えるもの |
| シアン化水素 | 重量の1%を超えるもの |
| 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフェニルメタン | 重量の1%を超えるもの |
| ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト | 重量の1%を超えるもの |
| 一・一―ジメチルヒドラジン | 重量の1%を超えるもの |
| 臭化メチル | 重量の1%を超えるもの |
| トリレンジイソシアネート | 重量の1%を超えるもの |
| ナフタレン | 重量の1%を超えるもの |
| ニッケルカルボニル | 重量の1%を超えるもの |
| パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン | 重量の1%を超えるもの |
| パラ―ニトロクロルベンゼン | 重量の5%を超えるもの |
| 弗化水素 | 重量の5%を超えるもの |
| ベータ―プロピオラクトン | 重量の1%を超えるもの |
| ベンゼン | 容量の1%を超えるもの |
| ホルムアルデヒド | 重量の1%を超えるもの |
| 沃化メチル | 重量の1%を超えるもの |
| 硫化水素 | 重量の1%を超えるもの |
| 硫酸ジメチル | 重量の1%を超えるもの |
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対象となる第三類物質の一覧
もう一つの対象物質である第三類物質は以下の物質です。第三類物質についても、これらの物質を含有する製剤その他の物について、特定化学物質障害予防規則別表第二に定める含有率を超える場合には対象となります。
下表は、物質名と、製剤その他の物として確認する際の主な含有率基準を整理したものです。
| 物質名 | 製剤その他の物として確認する際の主な含有率基準 |
|---|---|
| アンモニア | 重量の1%を超えるもの |
| 一酸化炭素 | 重量の1%を超えるもの |
| 塩化水素 | 重量の1%を超えるもの |
| 硝酸 | 重量の1%を超えるもの |
| 二酸化硫黄 | 重量の1%を超えるもの |
| フェノール | 重量の5%を超えるもの |
| ホスゲン | 重量の1%を超えるもの |
| 硫酸 | 重量の1%を超えるもの |
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塩酸について
現場でよく使われる「塩酸」については、法令上に「塩酸」という名称の分類はありません。塩酸は塩化水素の水溶液であるため、実務上は「塩化水素を重量の1%を超えて含有する製剤その他の物」に該当するかどうかを確認することになります。SDSで塩化水素の含有率を確認し、基準を超える場合には特定化学設備またはその附属設備への該当性を検討する必要があります。
化学設備との違い
化学設備と特定化学設備は、名前が似ていますが、着目点が異なります。
化学設備は、主に危険物や引火点のある物を製造し、または取り扱う設備であり、火災・爆発などの危険性に着目した設備概念です。
これに対し、特定化学設備は、特定第二類物質または第三類物質を製造し、または取り扱う設備であり、有害物の漏えいによる健康障害に着目した設備概念です。
| 観点 | 化学設備 | 特定化学設備 |
|---|---|---|
| 着目点 | 火災・爆発などの危険性 | 有害物の漏えいによる健康障害 |
| 主な対象物質 | 危険物(令別表第一)や引火点のある物 | 特定第二類物質・第三類物質 |
| 定義上の数量基準 | 届出判断に一定量以上の基準がある | 定義自体に数量基準が明示されていない |
| 主な確認視点 | 危険物の製造・取扱量、設備構造、届出・検査 | 漏えい防止措置、届出、定期自主検査 |
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化学設備の届出対象判断では、危険物等の取扱量に関する基準が問題になります。
これに対し、特定化学設備の定義自体には、「一定量以上の貯蔵量・取扱量がある場合に限る」という数量基準は明示されていません。
そのため、特定化学設備に該当するかどうかは、まず対象物質を製造し、または取り扱う移動式以外の設備かどうかを確認する必要があります。
ただし、警報設備の設置や管理特定化学設備に関する条文などでは、取扱量に関する基準が出てくる場合があります。そのため、「特定化学設備への該当性判断」と「個別措置の適用条件」を混同しないよう注意が必要です。
注意
特定化学設備への該当性判断と、警報設備など個別措置の適用条件は別に確認する必要があります。取扱量に関する基準が出てくる条文もあるため、数量基準の有無を一律に判断しないことが重要です。
化学設備の定義や届出・定期自主検査については、本シリーズ第1回で詳しく整理しています。
第1回:化学設備とは何か|製造業の工場で確認すべき届出・点検・管理体制の基礎 →
「量が少ないから対象外」とは限らない
ここで注意したいのは、「少量しか使っていないから、特定化学設備には関係ないはず」という誤解です。
特定化学設備の定義自体には数量の基準が明示されていないため、対象物質を製造し、または取り扱う移動式以外の設備であるか、そして設備として対象物質が接触、通過、貯蔵されるかをまず確認する必要があります。
安易に「量が少ないから対象外」と判断せず、取り扱い実態を丁寧に確認することが大切です。
生産設備以外でも該当し得る
特定化学設備は、製品を生産するラインや製造工程の主要設備だけに限定されません。対象物質を取り扱っていれば、付帯設備であっても該当する可能性があります。
例えば、以下のような設備も確認対象になり得ます。
- 排水処理設備の硫酸タンク
- 排水処理設備の塩酸タンク
- アンモニアを使用する処理設備
- 塩素を使用する設備
- 硫化水素を発生し、または取り扱う設備
- 薬液供給配管
- 薬液移送ポンプ
- 薬液注入設備
対象物質を原料として投入している場合だけでなく、工程中で第三類物質等が副生し、漏えいによる危険がある設備についても、特定化学設備に該当し得る点に注意が必要です。
なお、塩酸タンクについては、法令上は塩化水素を含有する製剤その他の物として確認する必要があります。塩化水素の含有率が基準を超える場合には、塩酸タンク、配管、ポンプ、バルブなどが特定化学設備またはその附属設備に該当し得ます。
排水処理の硫酸タンクの例
排水処理設備でpH調整のために硫酸を使用しているケースは、多くの工場で見られます。
硫酸は法令上の第三類物質であるため、この硫酸タンクや配管、ポンプ、バルブ、フランジなどが特定化学設備またはその附属設備に該当し得ます。
もちろん、硫酸タンクだからといって必ず特定化学設備であると断定できるわけではありません。設備の構造、使用実態、固定設備かどうか、硫酸の濃度、設備との接触の有無などを確認したうえで判断する必要があります。
重要なのは、「排水処理設備だから対象外」と決めつけないことです。生産ラインの設備だけでなく、薬液を扱う付帯設備にも目を向ける必要があります。
実務ポイント
特定化学設備は、生産ライン上の設備だけを見ると見落とす可能性があります。排水処理設備、薬液注入設備、付帯配管、移送ポンプなど、工場の周辺設備も含めて確認することが重要です。
届出や定期自主検査で注意すべきこと
特定化学設備に該当する設備を設置、移転、または主要構造部分を変更する場合には、労働安全衛生法令上の計画届の対象となり得ます。実務では、設備の種類、工事内容、対象物質、既存設備か新設設備かを確認したうえで、届出要否を判断する必要があります。なお、計画届については労働安全衛生法第88条、労働安全衛生規則第85条、第86条、第88条、別表第7が主な根拠となります。
また、特定化学設備及びその附属設備については、特定化学物質障害予防規則第31条により、2年以内ごとに1回の定期自主検査を行う必要があります。同規則第32条では、定期自主検査の記録保存が定められています。
点検の有無だけでなく、検査記録が残されているか、補修や改造後に必要な確認が行われているかも重要な確認ポイントです。
現場で確認すべきポイント
法令の要件を正しく理解した上で、自社設備を確認する前向きな第一歩として、まずは以下のような誤解を解くことから始めるとよいでしょう。
避けてほしい誤解
特定化学物質を保管しているだけなら関係ない
少量だから関係ない
生産設備ではないから関係ない
排水処理や付帯設備は対象外
SDSに特定化学物質と書かれていなければ確認不要
化学設備に該当しなければ特定化学設備にも該当しない
誤解を解いた上で、現場では次のような資料・設備・記録を確認してみてください。特定化学物質障害予防規則では、特定化学設備及びその附属設備について、2年以内ごとに1回の定期自主検査が求められており、その記録の3年間保存が義務付けられています。また、漏えいを防ぐための腐食防止措置、接合部からの漏えい防止、バルブの開閉方向表示、異常時の手順を定めた作業規程の整備なども重要な確認ポイントです。
確認資料の例
- 使用化学物質リスト
- SDS
- 特定化学物質の該当性確認結果
- 設備台帳
- 薬品タンク一覧
- 配管図
- P&ID
- 排水処理設備の薬注系統図
- 設置届・計画届の提出有無
- 定期自主検査記録
- 漏えい時の対応手順・作業規程
- 補修・改造・更新時の届出要否確認記録
現場確認の例
- タンク
- 配管
- ポンプ
- バルブ
- フランジ
- 薬液注入設備
- 防液堤
- 漏えい検知・警報設備
- 緊急遮断設備
- バルブ等の開閉方向の表示
- 腐食・劣化・にじみ・漏れの有無
まとめ
特定化学設備は、特定第二類物質や第三類物質を製造し、または取り扱う移動式以外の設備です。
化学設備と名前は似ていますが、火災・爆発危険に着目する化学設備とは異なり、特定化学設備は有害物の漏えいによる健康障害に着目した設備概念です。
また、特定化学設備の定義自体には、一定量以上の貯蔵量や取扱量がある場合に限るという数量基準は明示されていません。少量であることや、生産設備ではないことだけを理由に、対象外と判断するのは危険です。
排水処理設備の硫酸タンクや薬液注入設備など、付帯設備も含めて、自社の設備と化学物質の関係を確認することが、法令遵守と安全管理の確実な一歩になります。
主な法令根拠・参考資料
本記事は、主に以下の法令・通達・行政資料を参考に作成しています。実際の該当性判断や届出要否は、最新の法令、通達、所轄労働基準監督署の確認結果等に基づいて判断してください。
法令
第45条(定期自主検査)、第88条(計画の届出)が主な根拠となる条文。
第9条の3(特定化学設備の根拠)、第15条第1項第10号(定期自主検査の対象)、別表第三(特定第二類物質・第三類物質の定義)が主な参照箇所。
第85条・第86条・第88条・別表第7(計画届の手続)が主な参照箇所。
第2条(定義)、第13条から第20条(特定化学設備に係る措置)、第31条(定期自主検査)、第32条(定期自主検査の記録)、第34条(補修等の場合の点検)、別表第一(特定第二類物質の含有率基準)、別表第二(第三類物質の含有率基準)が主な参照箇所。
通達・行政資料
以下の通達・行政資料は、法令そのものではなく、法令の解釈や補足的な情報を示すものです。古い通達については、現在も有効かどうかを必ず最新の情報で確認してください。
特定化学物質等障害予防規則の施行について(基発第399号、昭和46年5月24日)
特化則の施行に際しての解釈通達。特定化学設備の定義・適用範囲の解釈を示す。
労働安全衛生法および同法施行令の施行について(基発第602号、昭和47年9月18日)
安衛法・施行令の施行に際しての解釈通達。特定化学設備関連条文の解釈を含む。
特定化学物質等障害予防規則の一部を改正する省令の施行について(基発第573号、昭和50年10月1日)
特化則の一部改正に伴う施行通達。管理特定化学設備等の解釈を含む。
特化則の解釈に関する疑義照会への回答集。特定化学設備の附属設備の範囲、取扱い基準の適用に関する解釈等を含む。
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の物質や設備への法令適用を断定するものではありません。実際の該当性や届出要否は、取扱物質の種類・性状・含有量、取扱数量、使用条件、設備構造、固定設備かどうか、所在地の行政運用等により異なる場合があります。本記事の内容を実務に適用する際は、必ず原典の法令・通達を確認の上、必要に応じて所轄の行政機関または専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、クシィ・グローブ合同会社は責任を負いかねます。