製造業の工場や事業場において、化学物質を安全に取り扱うことは極めて重要です。中でも「特定化学物質障害予防規則(特化則)」の対象となる物質は、発がん性などの重篤な健康障害を引き起こすおそれがあるため、厳格な管理が求められます。
本記事では、特化則においてどのようなケースで局所排気装置などの設置義務が生じるのか、また、どのようなケースで局所排気装置等を設けないことができるのか、あるいは適用除外となり得るのかについて、有機溶剤中毒予防規則(有機則)との違いを交えながら実務的な視点で解説します。
この記事で分かること
- 特化則において局所排気装置等の設置義務が生じる主なケース
- 局所排気装置等を設けないことができる可能性があるケース
- 第5条の「対象外」と「免除」の違い
- 第6条、第6条の2、第6条の3が第一類物質には一般的に適用されないこと
- 自律的管理制度による適用除外認定の注意点
- 有機則との違い
- 製造業の現場で確認すべきポイント
1. 特化則における局所排気装置の位置づけ
特化則では、有害性の高い化学物質から労働者を守るため、原則として発散源対策が義務付けられています。
具体的な設備対策として、「発散源を密閉する設備」「局所排気装置」「プッシュプル型換気装置」のいずれかを設けることが求められます。
整理すると
局所排気装置の設置のみが唯一の正解ではなく、密閉化やプッシュプル型換気装置も同列の有効な選択肢として位置づけられています。
2. 設置義務が生じる主なケース
特化則において、局所排気装置等の設置義務が生じる代表的なケースは以下の通りです。
| ケース | 根拠条文 | 求められる設備対策 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 第一類物質を取り扱う作業 | 特化則 第3条 | 重篤な健康障害を引き起こすおそれがある第一類物質を容器に入れたり、取り出したり、反応槽へ投入したりする作業などでは、原則として密閉設備、囲い式フードの局所排気装置、またはプッシュプル型換気装置の設置が必要です。また、ベリリウム等を加工する作業についても、粉じんの発散源に対して密閉設備、局所排気装置、またはプッシュプル型換気装置の設置が求められます。 | 第一類物質は特に厳格な設備義務の対象となります。後述のとおり、第6条等の特例は第3条の義務には一般的に適用されません。 |
| 特定第二類物質等の計量・袋詰め作業等 | 特化則 第4条第4項 | 特定第二類物質やオーラミン等を計量し、容器に入れ、又は袋詰めする作業において、隔離室での遠隔操作によることが著しく困難な場合は、囲い式フードの局所排気装置またはプッシュプル型換気装置を設けなければなりません。 | 「隔離室での遠隔操作が著しく困難な場合」という要件を満たすかどうかの確認が必要です。 |
| 特定第二類物質・管理第二類物質の屋内作業場 | 特化則 第5条第1項 | 特定第二類物質や管理第二類物質のガス、蒸気、粉じんが発散する屋内作業場については、発散源を密閉する設備、局所排気装置、またはプッシュプル型換気装置のいずれかを設けることが原則として義務付けられています。 | 「屋内作業場」の要件や第5条のカッコ書きによる対象除外に注意が必要です。 |
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3. 局所排気装置等を設けないことができる可能性があるケース
特化則では、例外的な条件を満たす場合や、行政の手続きを経ることで局所排気装置等の設置義務が適用除外となったり、特例として設けないことができるケースがあります。
これは「自社判断で自由に局所排気装置を省略できる」という意味ではありません。
| ケース | 根拠条文 | 制度の位置づけ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 設置が著しく困難な場合、臨時作業の場合 | 特化則 第5条第1項ただし書、第5条第2項 | 密閉設備、局所排気装置等の設置が著しく困難なとき、又は臨時の作業を行う場合は、例外的に局所排気装置等を設けないことができます。 | その場合でも、全体換気装置の設置、対象物質の湿潤化など、労働者の健康障害を予防するために必要な措置を講じる必要があります。 |
| 労働基準監督署長の認定 | 特化則 第6条 | 作業場の空気中の濃度が、常態として有害な程度になるおそれがないことについて所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合は、設置義務の規定が適用されません。 | 第6条は第4条・第5条に係る適用除外であり、第3条の第一類物質の設備義務に一般的に適用されるものではありません。 |
| 発散防止抑制措置の特例 | 特化則 第6条の3 | 局所排気装置等以外の代替技術で発散を防止・抑制する措置を講じ、作業環境測定の評価が第一管理区分となった場合、所轄労働基準監督署長の許可を受ければ局所排気装置等を設けないことができます。 | 第6条の3は第4条第4項および第5条第1項に係る特例であり、第3条の第一類物質の設備義務に一般的に適用されるものではありません。 |
| 発散防止抑制措置の許可取得のための測定時の特例 | 特化則 第6条の2 | 第6条の3の特例許可を受けるための濃度測定を行う段階においても、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるなどの条件の下で、一時的に設備の設置義務の特例が認められます。 | これは許可取得のための測定時に関する特例であり、恒久的に局所排気装置等を不要とする制度ではありません。 |
| 化学物質管理水準が一定以上である事業場に対する労働局長認定 | 特化則 第2条の3 | 事業場に専属の化学物質管理専門家が配置され、過去3年間に特定化学物質による死亡災害または休業4日以上の労働災害が発生しておらず、作業環境測定の評価結果がすべて第一管理区分であることなど、厳格な要件を満たして所轄都道府県労働局長の認定を受けた事業場は、特化則の一部規定について適用除外を受けることができます。 | 特化則のすべてが適用除外になるわけではありません。健康診断や保護具に関する規定などは引き続き適用されます。 |
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4. 第一類物質に関する特例の注意点
第一類物質には、第6条・第6条の2・第6条の3の特例を安易に当てはめない
特化則には、発散防止抑制措置の特例(第6条の2、第6条の3)や、常態として有害な程度にならない場合の認定(第6条)などがあります。
しかし、これらは第4条第4項および第5条第1項に関する規定です。
第一類物質を取り扱う際の第3条の設備義務には、これらの特例等は一般的に適用されず、原則通り厳格な設備対策が求められます。
5. 自律的管理制度(第2条の3)の誤解防止
化学物質管理が一定の水準にあるとして労働局長の認定を受けた事業場は、特化則の一部規定について適用除外を受けることができます。
しかし、この認定を受ければ「特化則のすべてが適用除外になるわけではない」という点に注意してください。
- 特殊健康診断の実施(第6章)
- 有効な呼吸用保護具の使用(第7章)
上記はあくまで例示です。適用される規定の範囲については、認定の内容および関係法令を必ずご確認ください。
6. 「第5条の対象外」と「免除」の違い
特化則の条文を読む際、第5条第1項のカッコ書きにより、以下の作業は第5条、つまり局所排気装置等の設置義務の適用から除かれています。
- 特定第二類物質を製造する作業
- 臭化メチル等を用いる燻蒸作業
- ベンゼン等を溶剤として取り扱う作業
「第5条の対象外」は「免除」ではありません
これらの作業は、第5条の一般的な設備義務ではなく、別条文で専用のルールが定められているために第5条の対象外とされているものです。
例えば、特定第二類物質の製造は第4条の厳格な設備要件、燻蒸作業は第38条の14、ベンゼン等の溶剤使用は原則禁止ですが設備要件等を満たした場合の例外として第38条の16がそれぞれ適用されます。
法令を解釈する際は、この「第5条の対象外」を「免除」と混同しないように注意が必要です。
7. 有機則との比較
有機則では、作業実態に応じて局所排気装置等を設けないことができる例外・特例が比較的細かく定められています。
| 観点 | 有機則 | 特化則 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 許容消費量 | 有機則には、有機溶剤等の許容消費量を基準に、第2条の適用除外や、第3条の所轄労働基準監督署長の認定による適用除外を検討する枠組みがあります。 | 許容消費量を理由とする一律の適用除外規定はありません。 | 有機則のように「使用量が少ないから」という理由だけで特化則の局排要否を判断するのは危険です。 |
| 周壁開放 | 周壁の二側面以上かつ面積の半分以上が外気に向かって開放されている屋内作業場は適用除外となります(第7条)。 | 周壁開放を理由とする一律の適用除外規定はありません。 | 「風通しが良いから大丈夫」という判断は、特化則では通用しません。 |
| 臨時作業・短時間作業・発散面が広い作業 | 臨時作業(第8条)、短時間の作業(第9条)、発散面が広い場合(第10条)などに、全体換気装置の設置等で代替し、局所排気装置等を設けないことができる特例が明記されています。 | 臨時作業や設置が著しく困難な場合の例外はありますが、有機則ほど作業実態別に細かい例外が用意されているわけではありません。 | 短時間だから、臨時だからという理由だけで、特化則対象物質の局排要否を自社判断しないことが重要です。 |
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有機則の感覚で、特化則の局排要否を判断しない
特化則には、許容消費量や周壁の開放といった一律の適用除外規定は存在しません。
有機則の感覚で「使用量が少量だから」「風通しが良いから」と独自の解釈で特化則の設備を不要と判断することはできません。
特化則対象物質について局所排気装置等を設けない判断をする場合は、条文上の根拠、行政の認定・許可、代替措置の内容を確認する必要があります。
8. 製造業の現場で確認すべきポイント
対象物質の正確な把握
取り扱う化学物質が特化則の何類に該当するのか、それとも有機則の対象かを正確に特定する。
作業内容の確認
容器への出し入れ、反応槽への投入、計量、袋詰め、屋内作業場でのガス・蒸気・粉じんの発散など、どの条文に該当し得る作業なのかを確認する。
設備対策の確認
局所排気装置だけでなく、密閉設備、プッシュプル型換気装置も選択肢として確認する。
特例・適用除外の根拠確認
特化則で局所排気装置等を設けないとする場合は、明確な条文上の根拠や、労働基準監督署長・都道府県労働局長などの行政の認定・許可があるか確認する。
安易な自社判断の回避
「自社で管理できているから」「短時間だから」「少量だから」といった理由だけで設備を撤去したり設置を見送ったりしない。
9. まとめ
特化則における局所排気装置等の設置義務については、有機則と比べて、許容消費量や周壁開放などを理由とする一律の適用除外が用意されているわけではありません。
そのため、特化則対象物質を取り扱う場合は、より慎重に発散源対策の要否を確認する必要があります。
実務においては、「どの化学物質を」「どのような作業で」取り扱っているかを正確に把握することがコンプライアンスの第一歩です。
特化則の設備義務やその例外措置が自社で正しく運用されているかどうかを確認するためには、関係法令を正しく理解した上で、実際の現場確認、図面や届出・許可証などの書類確認、そして作業手順や保護具の着用状況等に関する関係者へのインタビューを通じたEHSコンプライアンスの総合的な確認を実施することが重要です。
特化則・有機則の設備要否を、現場実務に即して確認します
クシィ・グローブ合同会社では、製造業の工場・事業場を対象に、EHSコンプライアンス自走化・定期点検サービスを提供しています。
化学物質管理、局所排気装置、密閉設備、プッシュプル型換気装置、届出・許可・認定の有無などについて、現場確認、書類確認、関係者インタビューを通じて、EHS法令遵守上のリスクを確認します。
例えば、次のようなお悩みはないでしょうか。
工場で特定化学物質を取り扱っているが、局所排気装置等の設置義務の対象になっているかどうか整理できていない
特化則の設備要件が自社の作業に対して適切に対応されているか、届出・許可・認定の状況も含めて確認したい
有機則と特化則のどちらが自社の作業に適用されるのか、あるいは両方に関係するのか整理できていない
こうした場合には、取扱物質、作業内容、設備の状況を整理した上で確認することが重要です。まずは現状の取扱物質や作業内容の整理からご相談ください。
主な根拠法令・告示・通達
以下は本記事の根拠となる主な法令・告示・通達の一覧です。最新の内容は必ず原典をご確認ください。
特定化学物質障害予防規則
第2条の3、第3条、第4条、第5条、第6条、第6条の2、第6条の3、第7条、第38条の14、第38条の16
特化則における局所排気装置等の設置義務、適用除外、発散防止抑制措置、自律的管理制度、第5条の対象外となる個別作業に関する主な根拠規定です。
有機溶剤中毒予防規則
第2条、第3条、第7条、第8条、第9条、第10条
有機則における許容消費量、周壁開放、臨時作業、短時間作業、発散面が広い作業に関する比較対象として参照しています。
特定化学物質障害予防規則の規定に基づく厚生労働大臣が定める性能
昭和50年9月30日 労働省告示第75号
特化則に基づく局所排気装置等の性能に関する告示です。本記事では設置後の性能管理は詳細に扱っていませんが、特化則上の局所排気装置の要件に関係する根拠として参照しています。
特定化学物質等障害予防規則第6条第1項の規定による認定の基準及び同規則等の規定により設ける局所排気装置の性能の判定要領について
昭和58年7月18日 基発第383号
特化則第6条第1項の認定基準および、特化則等に基づき設ける局所排気装置の性能判定要領に関する通達です。
有機溶剤中毒予防規則等に基づく発散防止抑制措置特例実施許可等について
平成24年6月29日 基発0629第3号
有機則、鉛則、特化則に基づく発散防止抑制措置特例実施許可等の運用に関する通達です。特化則第6条の3に基づく許可に関係します。
有機溶剤中毒予防規則等に基づく化学物質の管理が一定の水準にある場合の適用除外の認定制度の運用について
令和5年1月30日 基安発0130第1号
有機則、鉛則、特化則、粉じん則に基づく、化学物質管理水準が一定以上である事業場に対する適用除外認定制度の運用に関する通達です。特化則第2条の3に関係します。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の設備や作業への法令適用を断定するものではありません。局所排気装置等の設置義務の有無、特例・適用除外への該当性は、対象物質の区分、作業内容、設備の構造・種類、取扱数量、使用条件、所在地、所轄行政機関の判断等によって異なります。本記事の内容を実務に適用する際は、必ず原典の法令・通達を確認の上、必要に応じて所轄の労働基準監督署または専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、クシィ・グローブ合同会社は責任を負いかねます。